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“夕なぎレポート”感想


 「カッシーニ間隙」のノベライズ的な作品です。結構おもしろいです。(^^)
 特に終盤がいい。マッキーがいい味を出してます。原作ではやや流しているクライマックスシーンを丁寧かつ劇的に描いているのは二重丸。(^^)
 一方マッキーに比べて晴ボンの影が薄いですが、まあ仕方ないところでしょう。(^^;)

“リミ”の事が出てくるのは、なかなかにやりとさせられました。原作では理美ちゃん出てきませんもんね(クラス違うから当然だけど)。「シン−ナオミ」ペアと「イチノ−リミ」ペアを対比させたのはうまいと思いました。

 ところどころ文章的に読みづらかったり、序盤がたるみ気味なのがちょっと残念。あと誰のセリフか一瞬わからない所があったりとか。
 まあそれを差し引いても良作ですよ。


“夕なぎレポート”批評(辛口)

 え〜自分の事は棚に上げて書きたい放題書かせて頂きます(爆)。


 主人公は誰でしょう? 序盤は明らかにシンなんですが、終盤はイチノに主人公役が移っちゃってますね。これはまずいと思います。一人に絞るべき。思い切ってイチノを主人公にしてもよかったかもしれません。主題変わるでしょうけど。
※追記:あのイチノ自体は格好いいので好きなんですけどね。(^^;) 主視点があそこだけ移っちゃうのが問題なんです。


“誰かがこんな事を言った。”のくだり、ここが一番書きたかったんじゃないかなあと思うんですが(違ったらごめんなさい)、この文章を心に響かせる為にもう少し伏線を用意した方がよかったのでは? ちょっと物足りない気がするんです。


 構成が原作とほとんど同じなのはある意味面白いんですけど、再構成したほうがよかったと思います。漫画ならではの構成と小説ならでは構成とは違うものなのに、それをそのまま移植しておかしくなっているように見えるのです。

 もし原作通りの構成を守るなら、少なくとも1ページ目の宇宙のシーンを削っちゃ駄目でしょう。
 歌劇のセオリーとして、始まりのシーンに人物を出さない、というのがあるそうです。まず舞台セットを見せる。それによって物語の背景を見せる。説明するのではなく、「見せる」のです。
「夕なぎレポート」は宇宙が舞台なんですから、宇宙を視覚的に見せるべきです。土星とその輪を描いておけば、カッシーニ間隙への伏線にもなります。

 全般にいえますが、「書く(説明する)事」と「描く(見せる)事」をうまく使い分けないと論文のようになってしまいます。


「それと、土星の環と何の関係があるのか?俺にはそのほうがわからないよ」

 イチノがシンに尋ねるシーンですが、シンが「土星の環」の話をする箇所と、このイチノが尋ねる箇所とがあまりに離れすぎていて(間に「十字星4」「地球回想」の二つのシーンを挟んでいる)非常にわかりにくいですね。ここ、元々原作でもややわかりづらい所なので、小説化する時には気を付けるべきでしょう。これも構成ミスといえます。


 文章がところどころおかしいので、読みづらい原因になっています。

 そんなサカグチの言葉、「腕の良い操船士」という言葉反応したムカイ・マキを筆頭、皆の視線が彼向く。

 例えばこの箇所。「に」が四回続いていますね。これはまずいでしょう。無理に一文にせず、切った方がいいです。

「えっ? どういう事?」
 ムカイ・マキから即座に尋ねられてサカグチが顔を上げる。「腕の良い操船士」という言葉が皆の関心を誘ったのか、彼に視線が集中していた。

 例えば私だったら、こうアレンジするでしょう。


 こんな土星エリア、いわゆる辺境ともいわれる遠い場所に配属されることが決まり、そしてココに来ることを決めた誰もが何らかの形で別れを経験してきている。

 ここもそう。「遠い場所に配属されること」と「別れを経験してきている」ことは内容的に別の文です。無理につなげてはいけません。
 私だったら、こんな感じにアレンジするでしょう。

 こんな土星エリア、いわゆる辺境ともいわれる遠い場所に配属されることは人間関係に大きな間隙を生むものだ。ココに来ることを決めた誰もが、何らかの形でそんな別れを経験してきている。


 では良かった点をいくつか。

 やはりクライマックスでしょう。これがいい。見せ場がある。
 小説のジャンルにもよりますが、こういう作品の場合はやはり見せ場がある事が必須条件となるでしょう。その見せ場をきちっと描いたのはお見事でした。
 また、緊迫した空気を一気に和らげるマッキーの冗談。これが素晴らしい。タイミングばっちりです。やっぱりすくらっぷはこうでないと。シリアスが続きすぎても、笑いが続きすぎてもいけない。

 それからこれも感想で触れましたが、「シン−ナオミ」ペアと「イチノ−リミ」ペアを対比させた事。うまいです。何かを強調するときは比較対象を用意するのがセオリーですが、ここはうまくイチノというキャラを活かしましたね。

 感心したのが、十字星4のクルーの出番をナオミ以外ほとんど削ったこと(原作には雅一郎がいたんですよね。ワンカットだけですけど)。キャラが多すぎるとわかりづらくなるなど弊害の方が多くなりがちです。二次創作の場合はキャラクターの紹介を省略できる分まだマシでしょうが、思い切って割り切る事は大事でしょう。ここは正解でしょうね。
 そういう視点でみても、冒頭のトモダ・ヨーコのシーンは浮いてるんですよね。あの二人あそこしか出ないし。


 私の気ままな批評どうでしたか? かなり好き放題に書いていますが。(^^;)
 なにはともあれ面白かったので、次回作(勝手に)期待してます(笑)。

 追伸。この批評を読まれた方へ。この批評に対する批評もご自由にどうぞ(笑)。


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